子どもたちが独立すると、再び夫婦だけの長い時間がスタートする。そんなとき夫婦内の役割分担は? コミュニケーションを円滑に行うには、どんな心構えが必要?
夫・ターセンさんが52歳で早期リタイア後、二人三脚でギャラリーとパン屋を20年以上営んできた引田夫妻。周囲から「理想の夫婦」と言われることの多いふたりに、夫婦関係を育てていくコツを伺った。
夫の早期リタイアから関係を再構築
吉祥寺でギャラリー、パン屋を営みながら、洗練されたライフスタイルが人気を集めている引田かおりさん、ターセンさん夫妻。まるでホテルのようにすっきり整ったインテリアや、センスあふれるもの選びなどが注目され、メディアにも数多く登場している。
それに加えてよく知られているのが、夫婦の風通しのいい関係。一緒に仕事をしながらもほどよい距離感、家事も完全に分担しながら心地よく暮らす様子に、周囲から「どうしたらそんな夫婦になれますか?」と尋ねられることも多いそう。
ふたりが暮らすのは、吉祥寺の中心地にある一軒家。二世帯同居で、1階に夫妻、3階に娘夫婦と孫2人が暮らしている。子どもたちが独立したのはすでに10数年前、夫婦ふたりの時間をすでに長く積み重ねてきた。
会社員時代はバリバリの仕事人間、家庭を振り返ることも少なかったターセンさんだが、暮らしに向き合う日々を続け、今では立派な家庭人に。
「僕が名刺を持たないおじさんになってから、価値観の大変革をしたんだよね」とターセンさん。「生活者としての成長ぶりは、本当にすごかった。『夫婦はこんなもの』とあきらめないことが大事で、ふたりで大切に育てて、つくり上げていくことが大事なのよね」とかおりさん。そんなふたりの心地よく暮らしていくための「夫婦のルール」を伺ってみた。
いつも仲のいい引田夫妻のルールは?
1.相手の領域を侵さない。いつもふたりでじゃなくてもいい
周りから「仲よし」と言われている2人だが、実際の生活はひとり行動が中心。「無理に合わせてストレスを感じるよりは、お互い自由に過ごして、干渉しないほうが心も穏やかです」とかおりさん。ターセンさんが「がっつり肉を食べたい!」となったときも、家で料理せねば、一緒に店に行かねばと気負うとストレスになるので、「どうぞ外食へ」と送り出す。
また釣りや温泉巡りが趣味のターセンさんが遠出をするのも、基本的にひとりで。そして「また通販で、新しい釣り道具が届いたな?」と気づいても、口出しは一切しない。
逆にかおりさんの元に届く、新しい健康グッズや美容グッズに関してもしかり。お互いに「好きなものに関しては不可侵」という姿勢を守り、ほどよい距離を取ることを心掛けているそう。
2.でも提案はあきらめずにやってみる
「それぞれの領域を守る」と言いつつも、時に口出ししたくなるのが夫婦というもの。特に妻側から「夫のファッション」に関する悩み(無頓着すぎる、ダサい……などなど)もよく聞かれるが、「大事なのは、伝え方」とかおりさん。
「男性は指図されることが嫌いなので『天気がいいから、一緒に買い物行かない?』『これ着てみない?』と、提案をするようにしています。『この人はこうだから』と決めつけず、『今日はダメだったけど、じゃあ明日言ってみよう』とか、割としつこく、あきらめないで言い続けていますね(笑)」
かおりさんが選んだ服を着てギャラリーに立つと、「素敵ですね」と声をかけられることも多いらしく、そんな積み重ねも成功体験になり、夫側からも「意見を聞いてみよう」という姿勢につながるらしい。
3.家事は任せたら、相手のやり方を否定しない。感謝はきちんと伝える
ターセンさんがリタイアしたあとは、それまですべてかおりさんが行っていた家事も、ふたりで分担していくように。
「最初のうちは、食器を洗っても周りはびしょびしょ、大事な器から割れるなど、いろいろありましたが(苦笑)、そこをぐーっとガマン。『最近はあまり水が飛ばなくなったね』『男の人は力があるから、きれいになるね』と、とにかく褒めて伸ばす作戦です。クオリティよりも、『不慣れでも、やってくれている』という事実を大切にしました」とかおりさん。
やり方は否定せず(あとでこっそり始末をすることも)、やったあとは必ず「ありがとう」と口に出して言う。そうこう続けているうちに、少しずつスキルが上がり、今では食器洗いも洗濯干しも、かなりのエキスパートに成長。洗濯後のホコリ取りなども、かなり丁寧に行ってくれているそう。
4.家事分担はそれぞれの“得意”を生かして
家事は分担もひと苦労だが、引田家の割り振りは非常にシンプル。
「僕の担当は、食器洗いや掃除、家電のメンテナンスや庭の植栽の世話など、言わば家庭のインフラ部分。スケジュールを決めたルーティンを遂行するのが得意なので、一度『やる』と決めたら、一生やり続けます(笑)」とターセンさん。
浄水器のフィルター交換や空気清浄機の掃除など、定期的にメンテナンスが必要なものは、手帳に書き入れしっかり管理。「感覚派の自分には、なかなかできないこと」と、かおりさんも賞賛する。
一方かおりさんの担当は、暮らしのソフト面。食料や消耗品の買い物や食事準備、花を飾ったり、お香を焚いたりといったインテリア全般、家庭生活を豊かに、かつ快適に回すための「名もなき家事」全般を行っている。それぞれの得意分野を生かし、リーダーシップを取ることで、不満が溜まるようなこともないそう。
撮影/大森忠明 取材・文/田中のり子