退職金、年金、相続など、50代からは、イヤでも「税」と向き合う場面が増える時機。税制の変化を知らずに損をすることのないよう、今こそ、知識をアップデート! 税理士の大河内薫さんが、退職所得控除・iDeCoで知っておくべきキーワードや注意点を解説。
教えてくれたのは
おおこうち かおる●税務や資産形成について楽しく学べるコンテンツを、YouTubeやVoicyなどで発信。著書に『貯金すらまともにできていませんが この先ずっとお金に困らない方法を教えてください!』(若林杏樹との共著。サンクチュアリ出版)など。
受け取り方で税金が変わるから“出口戦略”を考えておきたい
退職時期が近づくと、退職金や年金、iDeCo(個人型確定拠出年金)の受け取りが現実味を帯びてくる。
「50歳からは『どう積み立てるか』だけでなく、『どう受け取るか』も考えはじめたい年代。同じ金額を受け取るとしても、受け取り方によって税額が変わることがあるからです」。
退職金やiDeCoを受け取る際には、一括で受け取る“一時金”と、分割で受け取る“年金”を選べる。「一時金なら『退職所得控除(下記参照)』、年金なら『公的年金等控除』という税金が軽減される制度があります。どちらが有利かは、退職金の額や年金収入、勤続年数、働き方などによって変わるため、人それぞれ異なります」。
退職金とiDeCoを一時金で受け取る場合は、その順番や時期によって退職所得控除の扱いが変わる点にも注意。
「制度改正により、iDeCoを先に受け取り、あとで退職金を受け取る場合、以前はその間隔が5年空けば退職所得控除を両方で有利なかたちで使えましたが、その間隔が10年に延長されました。そのため、以前に比べると、退職金やiDeCoの一時金での受け取りに税金がかかりやすくなったといえます。
大切なのは、受け取る直前ではなく、50代のうちから受け取り方まで見据えて準備しておくこと。早めにシミュレーションをしておけば、自分に合った選択がしやすくなります」
Keyword
退職所得控除
長年働いた人ほど、退職金にかかる税金が軽くなる仕組み
退職所得控除とは、退職金を受け取る人の税負担を軽くするための制度。長く働いた人ほど控除額が大きくなり、課税対象となる退職金が減るため、支払う税金を抑えられる。勤続20年以下は『40万円×勤続年数』(最低80万円)、20年超は『800
万円+70万円×(勤続年数-20年)』が控除されたうえで税金が計算される。この控除は退職金だけでなく、下記のようにiDeCoを一時金で受け取る場合にも関係するため、税負担を軽くしたい場合は、受け取り方を工夫する必要がある。
iDeCo(個人型確定拠出年金)
現役時代の税負担を減らしながら老後資金を準備
iDeCoは、自分で掛金を積み立て、運用しながら老後資金を準備する制度。最大のメリットは、掛金が全額所得控除となり、現役時代の税金の負担を軽減できること。また、運用で得た利益に通常20.315%かかる税金が非課税になる点はNISAと同じ。一方で、掛金を拠出した時点では税負担を軽減できるが、受け取り方によって退職所得や雑所得として課税される場合がある。退職金を受け取るタイミングなども踏まえ、自分に合った受け取り方を考えながら活用したい。
'26年1月~、iDeCoを一時金として退職金より前に受け取る場合、退職所得控除を使える条件が
「5年ルール」から「10年ルール」に変更
「これまではiDeCoを一時金で受け取り、5年空けて会社の退職金を受け取ることで、それぞれの退職所得控除を使い、税金を抑えられる場合がありました。しかし制度改正により、この間隔が“10年”に延長。
例えば『60歳でiDeCo、65歳で退職金』といった受け取り方では、2つの受け取り時期が近いため、退職所得控除を十分に使えず、税負担が軽減できない可能性があります。一般的にはiDeCoより会社の退職金のほうが金額が大きいケースが多いため、退職金で有利に控除を使えるように、退職金とiDeCoの受け取り方や時期を考えておけるといいですね。
また、退職金やiDeCoは分割で受け取れば公的年金等控除が使えるため、どちらが有利かを調べてから判断しましょう」
退職金を先に受け取る場合は「20年ルール」で変更なし
それでもiDeCoはやっておくほうがよいですか?
出口で税金がかかったとしても、“節税”メリットは大きい
「iDeCoの大きなメリットは掛金が所得控除の対象となり、現役時代の所得税・住民税を軽減できること。所得税率が高い人ほど節税効果は大きく、積立期間中に“節税”できたぶんを投資にまわせば資産形成ができます。
また現役時代に税率30%だった人が、受け取る時期に税率が10%に下がっていれば、iDeCoを利用することで支払う税金は大きく下がります。一般的には受け取り時期は所得が下がり、税率も下がるケースが多いため、“出口”で税金がかかったとしてもiDeCoを活用するメリットは大きいと思います。受け取り時の税制は変わりましたが、50代からでもiDeCoを始めることを検討してみるのはありです」
取材・原文/西山美紀 イラスト/松井琢朗 ※エクラ2026年10月号掲載