退職金、年金、相続など、50代からは、イヤでも「税」と向き合う場面が増える時機。税制の変化を知らずに損をすることのないよう、今こそ、知識をアップデート! 税理士の大河内薫さんが、年金の受け取り方や税の知識を解説。
教えてくれたのは
おおこうち かおる●税務や資産形成について楽しく学べるコンテンツを、YouTubeやVoicyなどで発信。著書に『貯金すらまともにできていませんが この先ずっとお金に困らない方法を教えてください!』(若林杏樹との共著。サンクチュアリ出版)など。
年金の受け取り方
損得を追求しすぎず、「そのときの暮らし」に合わせて考える
やはり損はしたくないもので、年金についてよく話題になるのが、65 歳から受け取るか、受け取りを遅らせて受取額を増やすか。「『何歳まで繰り下げれば得か』『何歳まで生きれば元がとれるか』といった損得が注目されがちですが、そのときの暮らしに必要なお金があるかを基準に考えて」と大河内さん。
「退職金や貯蓄があり、生活費に余裕があれば繰り下げ受給も選択肢。一方で、生活費として年金を使いたい場合は、無理に受給を遅らせる必要はありません。また繰り下げによって年金額は増えますが、これからの時代、その間に物価が上がることも十分考えられます。
年金額が増えることだけで判断せず、物価の動きも踏まえて考えることが大切です。自分が何歳まで生きるかは、誰にもわかりません。だからこそ、将来の損得だけを追いかけるのではなく、『その時点で安心して暮らせるか』を軸に考えることが、後悔しない選択につながります」
また65歳以降も働く人は注意。「企業で働く場合、賃金によっては老齢厚生年金が減額される場合もあるので、受給を遅らせるという選択もありです。働き方も含めて考えましょう」。
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公的年金等控除
年金にも税金はかかるが一定額までは税負担が軽くなる制度
老後に受け取る国民年金や厚生年金、企業年金、iDeCo(年金受け取り)などには、原則として税金がかかる。ただし、一定額までは税負担が軽くなる仕組み。一方で、年金を受け取りながら会社員として働いたり、事業収入があったりすると、年金と給与・事業所得などを合算して所得税や住民税が計算され、税金や社会保険料の負担が増えることもある。退職後も働く予定がある人は、年金額だけでなく、ほかの収入も含めて受け取り方を考えることが大切。
年金の繰下げ受給
受給開始を1カ月遅らせるごとに0.7%ずつ年金額がアップ
公的年金は原則65歳から受け取れるが、受給開始を1カ月遅らせるごとに0.7%ずつ年金額が増え、75歳まで繰り下げると最大84%増額される。しかし、受取額が増えても、インフレで物価が上昇すれば、その増額効果は小さくなる。さらに、何歳まで生きるかは誰にもわからないため、将来の損得を追いかけるよりも、繰下げはあくまで選択肢のひとつとして「今の暮らしに年金が必要か」「今すぐ受け取らなくても生活できるか」を基準に考えて受け取り時期を検討しよう。
老齢厚生年金の減額
65歳以降も企業で働く場合は収入によって年金が減ることも
65歳以降も企業で働きながら老齢厚生年金を受け取る場合、賃金と老齢厚生年金の合計額が一定額を超えると、老齢厚生年金が減額・支給停止に。老齢基礎年金(国民年金部分)は減額の対象にはならない。’26年4月から減額の基準額が月51万円から65万円へ引き上げられ、収入が増えても年金が減額されにくくなり、働きながら年金を受け取りやすくなった。収入によって受け取れる年金額が変わる場合があるため、賃金と年金のバランスを確認しながら、受け取り方や働き方の検討を。
その他の税のトピックス
持て余しそうな土地は国に渡せる「相続土地国庫帰属制度」
土地を相続したものの、使う予定も売れる見込みもなく、管理に困る場合に知っておきたいのが相続土地国庫帰属制度。
「’23年に始まった制度で、建物がなく、管理や安全確保に過分な費用がかかる土地でないなどの条件を満たせば、不要な土地を国に引き取ってもらえます。原則20万円(標準的な管理費10年分相当)の負担金が必要ですが、相続後に何年も固定資産税等がかかることを考えると、この制度を使うメリットはあると思います。全ての財産を放棄する“相続放棄”と異なり、不要な土地だけを手放し、それ以外は相続できるのも利点。このような制度を知っておくと、将来かかる費用に見通しが立ち、心理的負担を減らせます」。
取材・原文/西山美紀 イラスト/松井琢朗 ※エクラ2026年10月号掲載
会社員でも使える控除はいろいろ。確定申告の時期には、1年を振り返ってみて
「会社員でも使える控除は意外とあります。例えば、1年間に支払った医療費が原則10万円を超えた場合は医療費控除が利用でき、税金が還付されます。また投資で損失が出た場合は、確定申告をすると翌年以降に損失を繰り越すことができ、翌年以降に利益が出て税金がかかる場合の軽減につながります。
災害や盗難などで被害を受けた場合は、雑損控除があります。さらに、親を扶養に入れた・はずれた、子供が19歳になったなど、家族構成の変化によって使える控除が変わることもあるため、その年ごとに状況を確認しましょう。年に一度、家族の状況に変化がなかったか、利用できる制度はないかを確認するのがおすすめです」
「税制はたびたび変更されます。いつもアンテナを張っておくことが大事」
「税制変更を避けることはできませんし、大きなニュースにならない場合もありますが、だからこそそれに対応できるかが大事。使える制度を知ることで、将来のお金の見通しを立てやすくなり、節税だけでなく、その先のお金の使い方まで考えられるようになります。それこそが、税の知識を身につけるメリットです」