「パリの人は、更年期にあまり悩みすぎていない気がする」——。パリ在住25年以上の元TBSキャスター・雨宮塔子さんがふと口にしたその言葉は、彼女の佇まいと相まって、こちらの気持ちまで軽くしてくれるような心地よい響きがある。日本では「下り坂」「我慢するもの」と受け取られがちな更年期。フランスのマダムたちはそれにどう向き合っているのか?
更年期は「通過点」。そこから自由になれる
更年期をめぐるフランスの空気から聞いてみると、雨宮さんはこう話してくれた。
「フランスでは、更年期は自然な人生の一部というか、一つの通過点として捉えられていることが多いと思います。ネガティブじゃないと言い切れるかはわからないんですけど、誰にでも訪れるもので、いずれ通り過ぎていくものだという認識ですね。さらにポジティブに言えば、そこを越えることで、女性としてもっと自由になれるという考え方もあると思います」
雨宮さんが読んだ資料によれば、仕事や日常生活に支障が出るほど重い症状が出る方もいる一方で、良好に過ごせた女性が80パーセント以上にのぼるのだとか。
「更年期を語るのは、確かに昔はもっとタブー視されていましたし、職場でも、症状が仕事に支障をきたしても十分に配慮されない、ということはあったと思います。けれども、議論はかなり進んできていて、社会的な課題として向き合っていこうという流れになってきていますよね」
「悩む前に相談できる」かかりつけ産婦人科医という文化
「フランスと日本の最大の違いは、かかりつけ医を持っているかどうかだと思います。フランスの女性たちはティーンの頃から産婦人科のかかりつけ医を持っていて、ピルの処方や子宮頸がんワクチンの相談などをきっかけに産婦人科に通い始めます。そして30代、40代、50代と、人生のステージに合わせて、常に専門医との対話を重ねていくんです。そういう文化があるから、深く悩み込むというより、年に一度の検診で話をしているうちに、自然と解決の糸口が見つかりやすい。更年期の症状も本当に人それぞれなので、一人で抱え込んで自己流で対処するのではなく、専門医からその人に合った方法をオーダーメイドのように提案してもらえる。その安心感はとても大きいと思います」
かかりつけ医との会話も、ごく自然なものだと言う。
「『最近の調子はどうですか?』という会話から始まるんです。『少しほてりがあるかも』など、気になっていることを伝えると、『では一度ホルモン値を見てみましょう』となる。そして、『この段階なら、まずはこういう方法がありますよ』と、その人のライフスタイルや好みも踏まえながら、合った対処法を一緒に探してくれるんです。」
「まずは食事療法で」薬に頼らない、段階的なアプローチ
雨宮さんが印象的だったと話すのが、ホルモン療法への慎重な姿勢だ。
「フランスで意外に感じたのは、すぐにホルモン補充療法に進むわけではない、ということです。最終的にホルモン治療が選択肢になる場合でも、人の体質にもよりますが、まずは軽めのパッチやジェルなど、皮膚から吸収するタイプが優先される。飲み薬や注射は、比較的あとから検討されることが多いんです。フランスでホルモン治療を受けている人は、2.5パーセントくらいしかいないというデータを見たことがあります」
雨宮さん自身、骨粗鬆症の予備軍と診断された際、ホルモン補充療法を処方されると思っていたら、かかりつけ医から意外な言葉が返ってきたそう。
「『まずは食事療法から始めましょう』と言われました。食生活や適度な運動など、日常の積み重ねから整えていく。その段階的なアプローチは、身体だけでなく、気持ちの面でも負担が少ない気がします」
雨宮さん流・パリを歩き、骨を鍛える「養生法」
では、雨宮さん本人の更年期はどのようなものでしょう。
「重たい症状はほぼなかったですね。たまにほてることはあるけれど、汗をかくほどではないです。もともとは寒がりだったんですけど、出産後に体質が変わったのか、基礎体温が上がって、むしろ暑がりになったんですよね。だから基本的にいつも薄着です(笑)」
その代わり、力を入れているのが骨粗鬆症対策です。
「週に3回は、サバやイワシなどの青魚を中心に、魚を食べるようにしています。缶詰でも十分だそうです。それに、ほうれん草やブロッコリーなどを合わせて、カルシウムの吸収を高めるようにしています。また、薬局で処方箋なしで買える液体タイプのビタミンD3を、冬場は2日に1回くらい、数滴舌に垂らして補ったりもしています」
では、運動としては具体的に何をしているのでしょうか?
最近パリでは女性専用の小規模で洒落たジムが開業する傾向もあるようですが…。
「そのようですね。水泳を勧められることもあるんですが、『何曜日の何時に行かなきゃ』というのが、私はかえってストレスになってしまうんです。着替えたり、濡れた髪を乾かしたりするのも少し面倒に感じてしまって。それより、自宅で簡単な筋トレを10分くらい、時にはNetflixを見ながらやっています。『やらないよりはいいかな』くらいの気持ちで(笑)。骨に刺激を与えるには、本当は縄跳びがいちばんいいと聞きますが、私はその代わりによく歩くようにしています。コロナ以降、地下鉄で携帯電話を盗られたこともあって、移動はできるだけ徒歩に。姪が来たときに歩数計で測ったら、2万4千歩になっていたこともありました(笑)」
歩くのが全く苦にならず、徒歩30、40分の距離ならメトロやクルマを使わず歩いてしまうという雨宮さん。
「時々、階段を上って、息切れするかどうかを自分で試したりもします。一段抜かしで上ってみて、それほど息が上がらなければ、『あ、大丈夫だな』って。もちろん、街を歩きやすい環境というのはあると思います。歩いていると、その季節ならではの景色や、小さな発見があるんですよね。気になった風景を写真に残したりしながら、日々の変化を楽しんでいます」
6年間のアナウンサー生活を経てTBSを退社。フランス・パリに渡り、フランス語、西洋美術史を学ぶ。’16年から3年間『NEWS23 』のキャスターを務める。現在、執筆活動のほか、YouTubeチャンネル『Toko AMEMIYA in Paris』を配信中。秋に新刊を刊行予定。
撮影/Ayumi Shino ヘア/Tomoko Ohama メイク/YUMI ENDO(eightpeace) コーディネイト・取材・文/Harue Suzuki
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