前編では、かかりつけ産婦人科医の文化やホルモン療法への向き合い方など、更年期について、フランスの医療的な背景についてお話を聞きました。後編では、メンタルケアや美意識、「女であることを諦めない」というフランス的なマインド、そして更年期と恋愛の関係まで、雨宮さんの言葉でたっぷりと語っていただく
カウンセリングは「特別なこと」じゃない
更年期で心が重くなったとき、フランスの女性はどうするのか。まず教えてくれたのが、カウンセリングへの距離感の違いだったそう。
「日本だと、メンタルクリニックやカウンセリングに行くというと、少しハードルが高いイメージがあると思うんです。でもフランスでは、例えば学生でも悩み事を抱えていると、『それならカウンセリングを受けてみたら?』という感じになる。学校の中にも相談できる窓口があったりして、とても身近なんですよね。更年期の症状が重い方がカウンセリングを受けるのも珍しくないようですし、生活習慣の見直しから、気持ちとの向き合い方まで、幅広くサポートしてもらえると聞きます。
フランスでは、いわゆる大きな病院だけでなく、個人で開業しているクリニックもとても多いんです。アパルトマンの一室で診療していることも多くて、予約を取って通うスタイルが一般的です。『このカウンセラーがよかったから紹介しようか』という話もよく聞きますね。フランス人にとっては、QOL(クオリティー・オブ・ライフ=生活の質)を保つことがとても大事なんです。だからこそ、不調を我慢し続けるのではなく、早めに対処する。そして、できるだけ自分らしく、心地よく過ごせる状態を保とうとするんだと思います」
自分の「チャーム」を見つける目——フランス女性の美意識
更年期を軽やかに越えていくフランス女性の底にあるのは、自分自身への独特の肯定感だと雨宮さんは感じている。
「『このソバカスが好きなの』と話しているのを聞いて、昔の私はすごく衝撃を受けたんです。自分の個性を、そのまま魅力として受け止める感覚がフランスの女性にはある。誰が何と言おうと、『私はこれが好き』と言える強さというか。ヴァネッサ・パラディのように、その人ならではの個性が魅力として愛されているところにも、フランスらしさを感じます。そういう考え方が、更年期や年齢を重ねることに対しても、ポジティブに作用しているんじゃないかなと思います」
しみやシワにしても、「隠すべきもの」として戦うのではなく、仕方のないものは肯定的に受け入れる姿勢がむしろフランスでは自然なことと、雨宮さんは捉えている。
「女として生まれるのではない、女になるのだ」
ボーヴォワールの『女として生まれるのではない、女になるのだ』という精神が息づいている気がします」と雨宮さん。
「日本のほうが、“若さ”に女性としての価値が結びつきやすい空気は、まだ少し強いのかな、と感じることがあります。もちろんフランスでも若さは魅力のひとつだと思いますが、一方で、年齢を重ねたからこその魅力を自然に認める感覚があるんです。むしろ、経験を重ねることで生まれる自信やキャリア、知性のようなものが、その人の魅力になっていく。『50代くらいがいちばん素敵』という話を聞くこともありますし、実際に『こんなふうに年齢を重ねたい』と思わせてくれるマダムもたくさんいます」
では具体的に、雨宮さんにとって素敵と感じる女性とはどんな方たちなのか?
「もちろん、ファッションが素敵な人もいますし、立ち居振る舞いや内面に惹かれる人もいます。すごく落ち着いているのに、言うべきことはきちんと言う。その佇まいに、経験に裏打ちされた自信のようなものが感じられるんです。それはやっぱり、若さだけでは出せない魅力だなと思います。例えば、カフェでふと聞こえてくる会話や、レストランでの受け答えに、『あ、こういう返し方をするんだ』とハッとすることもあります。一方で、年齢を重ねても、下着や身につけるものに手を抜かない人が多い。レースを楽しんだり、自分が心地よいと思うおしゃれを自然に続けているんですよね」
マクロン大統領夫人という「生きた見本」
「いつまでも女でいる」フランスの美意識を体現しているのがブリジット・マクロン大統領夫人の存在かもしれない。
「70代になってもミニスカートを素敵に着こなしている。日本だと年齢による“こうあるべき”という視線を気にしてしまうこともあると思うんですが、彼女はまったく臆さないですよね。賛否はあったとしても、自分のスタイルを自然に貫いている。その姿を見ていると、『年齢を重ねること』そのものへの捉え方が、少し変わる気がします。それに、あのヒールで颯爽と歩いているだけでも、本当にすごい(笑)。フランスらしいエレガンスを体現している存在だなと思います」
カップル文化と、スキンシップの大切さ
更年期になると、パートナーとの関係はどう変わるのか。フランスのメディアでは、そのことも驚くほど率直に語られる。
「“避妊を気にしなくてよくなることで、新しい関係性が始まる”というような特集を見かけることもあります。『女性として新たなステージを迎える時』みたいな表現もあって、“そこまで前向きに捉えるんだ!”と驚くことがあります(笑)」
ただし、大事なのは性生活そのものだけではないという風潮も注目に値すると雨宮さんは語る。
「実際の行為だけが大事なのではなくて、スキンシップや、お互いを気にかけるコミュニケーションを大切にする、という考え方の記事もよく見かけます。いずれにしても、関係の中でちゃんと向き合い続けることが大事、という感覚がフランスのカップル文化にはある気がします。一方的に我慢して合わせるというより、お互いが心地よくいられる関係をどう続けていくか。そのことを、すごく大切にしている印象があります」
その言葉を象徴するような光景を、雨宮さんは日常の中でよく目にするそう。
「さっきも、スーパーから手をつないで出てくる年配のご夫婦を見かけたんです。フランスのカップルって、たとえ会話が少なくなっても、ちゃんと向き合う時間や、触れ合うことを自然に続けている気がします。日本だと、そういうことを改めて言葉にするのは少し照れくさい部分もあると思うんですが、フランスでは、もっと自然なコミュニケーションとして根づいている感じがします」
テーブルの下で何をしているかわからない」——フランス流の“カップル文化”
そのカップル文化の強さは、シングルをめぐるこんなエピソードにも表れている。
「離婚した女性を一人で食事会に呼ぶと、『誰かと恋愛に発展するかもしれないからね』なんて冗談交じりに言われることがあるんです。“テーブルの下で何が起きているかわからない”って(笑)。それくらい、フランスでは“パートナーがいること”が自然な前提になっている部分はあるのかもしれません。食事会なども、ペア文化を感じることがありますね」
日本では女性同士の旅行や“推し活”で充足する女性も多いですが、フランスは少し様子が違うようだ。
「フランスでは、“推し活”のような文化は日本ほど強くない印象があります。むしろ、人とのリアルな関わりを大切にするというか。例えば、仕事で成功している女性でも、『ティンダーで知り合った人とカフェで会ってみた』という話を普通にしていたりするんです。どんなキャリアを積んでいても、恋愛やパートナーシップを人生の大切な要素として捉えている人が多い気がします。女友達同士で集まっていても、素敵だなと思う人がいたら自然と会話が始まる。そんなシーンを見ていると、恋愛が特別なイベントではなく、日常の延長線上にあるんだなと感じます」
ときめきは、人を前向きにする
そして雨宮さんは、「ときめき」や「誰かに心を動かされる感覚」は、更年期を迎えた後の人生とも無関係ではないのでは、と話す。
「閉経後も、卵巣から多少はエストロゲンが出るという話を聞いたことがあります。もちろん科学的なことはわからないですけれど、推し活でも恋愛でも、ワクワクしたり、ときめいたりすると、人ってやっぱり元気になる気がするんです。そうすると、自然と『もう少し頑張ってみようかな』と思えたり、いろんなことに前向きになれたりする。
『もうこれでいいか』と諦めてしまうより、何か心が向かう先があるのは、すごく大切なことなんじゃないかなと思います。しかも、それが仕事だけではなく、“好き”という感情に結びついていると、なおさら力になる気がします」
撮影/Ayumi Shino ヘア/Tomoko Ohama
メイク/YUMI ENDO(eightpeace)
コーディネイト・取材・文/Harue Suzuki
6年間のアナウンサー生活を経てTBSを退社。フランス・パリに渡り、フランス語、西洋美術史を学ぶ。’16年から3年間『NEWS23 』のキャスターを務める。現在、執筆活動のほか、YouTubeチャンネル『Toko AMEMIYA in Paris』を配信中。秋に新刊を刊行予定。
合わせて読みたい