エクラの美容記事でもおなじみのライター・山崎敦子がお届けする韓流ドラマナビ。今回は、名優チェ・ミンシクの圧巻の演技に舌を巻くミステリードラマ「最後列からの声」をご紹介。
個々の演技から目が離せない。キャスティングが最高!「最後列からの声」
「最後列からの声」の主演チェ・ミンシク Netflixシリーズ「最後列からの声」独占配信中
日本のサスペンスドラマ「家政婦は見た!」は、私の大好きなシリーズでしたが皆さんは覚えていますか? 誰もが完璧と思える上流家族の、実は俗にまみれた真実の姿と、その堕ちていくさまを覗き見る行為は何ものにも変えられない脳内エクスタシー。なのだけど、一番の俗物&ミステリーは、それを観ている自分だった!──ドラマの“俗”がまるで鏡のように跳ね返って自分に突き刺さる、何よりも教訓になったドラマでもありました。
他人の家庭をのぞき見するサスペンスミステリー
それにしても、今さらなぜ「家政婦は見た!」なのか? ですよね。それは、もちろんこの作品「最後列からの声」を視聴したからにほかありません。そうなんです。他人の家庭をのぞき見するサスペンスミステリーだったんですね、この作品も。
主人公の国文科教授ホ・ムノ役のチェ・ミンシク Netflixシリーズ「最後列からの声」独占配信中
主人公は大学の国文科教授ホ・ムノ(チェ・ミンシク)。といっても、大学教授が家政婦になる話ではもちろんありません。ムノ教授は授業のたびに毎回課題として作文を提出させていたのですが、所詮は学生が書く代物ですから、どれもこれも駄文が多い。そんな稚拙な文章を読みながら、チマチマ文句垂れているムノ教授なのですが、そんななか、目を止めた文章が一つ。それこそが、彼の講義をいつも“最後列から”聴いているイ・ガン(チェ・ヒョンウク)という学生の書く文章だったのです。その作文には、大学の同期であるセユン(イ・ジヌ)と知り合った経緯と、その家族の家に遊びに行った様子が綴られていたのですが、セユンには美しい母親と、知的で優しい父親がおり、どうやらイ・ガンは裕福なセユンの家庭に嫉妬にも近い羨望を感じているようなのです。
大学生イ・ガン役のチェ・ヒョンウク(右)と、セユン役のイ・ジヌ(左) Netflixシリーズ「最後列からの声」独占配信中
その文章力はなかなか際立っているようでして、そこらへんのちょっとした心理の盛り込み方も絶妙らしい。しかも、気になるところで「続く」と締められている。「な、なんだ、この後はどうなるんだ〜〜」とばかりにムノ教授は魅せられていくわけですよ、イ・ガンという人物が描写する裕福な家庭の物語に。
セユンの父役のキム・ジョンテ(左)と、セユンの母役のムン・ジョンヒ(右) Netflixシリーズ「最後列からの声」独占配信中
原作は、現代劇の最高傑作とも称されている劇作家フアン・マヨルガの戯曲『最後列の男』(2012年に『危険なプロット』としてフランスで映画化もされている)。それは現実なのか、はたまたフィクションなのか、その境界線が溶けていくようにどんどんあやふやになっていく巧みかつ斬新な構成。それをドラマとしてより効果的に踏襲しつつ、現代の韓国を舞台に大胆にアレンジしながら、キリキリとするような心理サスペンスが展開されていきます。
登場人物たちが抱える、“劣等感”や“嫉妬”が物語を動かしていく
主人公のムノ教授を演じているのは、ご存じ、韓国映画界の名優チェ・ミンシク。彼のリアルすぎる圧倒的な演技力あってこそのドラマ化というのでしょうか。とにかく、チェ・ミンシク演じるムノ教授がすごすぎる。急に下世話にはなりますが、「家政婦は見た!」になぞらえれば、観ている“私”つまり視聴者なんですよね、ムノ教授って。
主演のチェ・ミンシク Netflixシリーズ「最後列からの声」独占配信中
その人物設定もなかなか。若い頃に1本だけ小説を書いているけれど、2本目を書くことができなかった、いわば小説家として挫折しているおじさんなのです。プライドがめちゃ高く、生徒に対しては横柄でかつ居丈高なくせに無関心。その心の内は作家として成功できなかった劣等感が実は渦巻いている……。ドラマ冒頭で、ムノ教授は大学の同期で今も著名作家として活躍しているキム・スフン(ホ・ジュノ)と対談をすることになります。ムノ教授はかつて自分の作品をこのキム・スフンに酷評されたことがあるんですよね。しかも、彼の妻(キム・ユンジン)はムノ教授の叶わなかった初恋の相手でもある……。イ・ガンがセユンと彼の家族に嫉妬にも似た羨望を抱いているように、ムノ教授もまた、作家キム・スフンに対する嫉妬の思いを消せることができない。ここがドラマのミソとなります。
チェ・ミンシク(左)と、スター作家役のホ・ジュノ(右) Netflixシリーズ「最後列からの声」独占配信中
さて、イ・ガンの作文にすっかり魅了されたムノ教授は、彼に秘密の個人指導を申し出ます。小説を書くためには観察が必要だとか、表面的ではない隠された裏を読むのだ、などというムノ教授ではありますが、あろうことかイ・ガンはセユンの家庭を観察することができなくなってしまうといい出すのです。このまま観察を続けるためにはムノ教授にあることをしてほしいというのですが、それは教授としては決してやってはいけないこと。なのに、ムノ教授はやってしまうんですね。そう、彼の文章の続きを読みたいがゆえに。そうして、2人の立場は徐々に逆転していくのです。
チェ・ミンシク(左)とチェ・ヒョンウク(右) Netflixシリーズ「最後列からの声」独占配信中
主役だけじゃない! 脇を固める俳優陣の演技もすごい!
ということで、このイ・ガンを演じているチェ・ヒョンウクが、これまたすごい。イ・ガンは工学部の学生。文学にも興味があるようで、ムノ教授の授業も受けているらしいのですが、ドラマでは彼の背景にあまり触れないんですよね。そのせいなのか、どこか謎めいている。なので、一見、まだまだあどけない学生のようにも見えるし、何か別の思惑がありそうにも見えるし。そこらへんの表現の加減が、さすが若手演技派No.1のチェ・ヒョンウク。飄々と演じているだけなのに、そりゃあもう、ぐいぐいと魅せてくれるわけなのです。「D.P. -脱走兵追跡官-シーズン2」のたった1話しか出ていない、その最初の1カットの沈黙の表情で凄まじいまでの多くを語っていたチェ・ヒョンウク。爽やかな好青年から、いじめ役まで、ラブコメもヒューマンもノワールも、過剰に演技することなく、なんでもリアルにこなしてしまうチェ・ヒョンウク。すっとそこにいるだけで、観ている人の想像力を十二分なまでに掻きたてる緻密な表現力と存在感。
チェ・ヒョンウク Netflixシリーズ「最後列からの声」独占配信中
ドラマは、ムノ教授とイ・ガンのいる現実の世界と、イ・ガンが書いた文章の中で展開するセユンとその家族の世界を、それぞれの映像を交錯させながら描いていくのですが、どこまでがリアルなのか、どこまでがフィクションなのか、つまりは本当に起きていることなのか、それとも創作なのか、はたまたムノ教授の妄想なのか、観ている私たちをも巻き込んでどんどんどんどん混乱させていくという仕立て。その混乱の中で、プライド高い中年のおっさんが、少年の書く世界にどっぷりと引きずり込まれ、常軌を逸していくさまが凄まじい。まさに、チェ・ミンシクVSチェ・ヒョンウクという世代を超えた演技派同士の一騎打ちとでも申しましょうか。
チェ・ミンシク(右)とチェ・ヒョンウク(左) Netflixシリーズ「最後列からの声」独占配信中
6月の終盤に一挙配信された作品だったので、web eclatの「2026年上半期 韓国ドラマ大賞ベスト10発表!」に入れることができなかったのですが、もし間に合えば、これが私的上半期ベストドラマだったといえるかもしれません。作家キム・スフン役のホ・ジュノ(「ミッシング〜彼らがいた〜」「埋もれた心」)、その妻役のキム・ユンジン(映画『シュリ』映画『国際市場で逢いましょう』)、ムノ教授の妻役のチン・ギョン(「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」「クイーンメーカー」)、セユン役のイ・ジヌ(GHOST9)、セユンの父役のキム・ジョンテ、母役のムン・ジョンヒ、セウンの家のハウスキーパー役のハン・ジウンなどなど、脇を固める演技派俳優陣も、この役はこの人でないと! という絶妙なキャスティング。全6話、一気見必至。最初から最後まで高揚するようなゾクゾク感と胸が痛くなるようなキリキリ感が止まりません。
■Netflixシリーズ「最後列からの声」独占配信中
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