インターネットやSNS上でのフェイクニュースやデマの拡散。日々さらされるその危険から自分を、身近な人々を守るために今、私たちにできることは? 情報リテラシーの専門家、ジャーナリストの下村健一さんにたずねた。
「情報災害」は、必ず減災できる!
ジャーナリスト 下村健一さん
しもむら けんいち●’60年生まれ。白鷗大学特任教授。著書に『窓をひろげて考えよう』(かもがわ出版)、『想像力のスイッチを入れよう』(光村図書・小5国語教科書)など。ブログ『デマにブレないスイスイスイッチ!』を発信中。
「へぇ、こんな考え方があるんだ」おもしろがれば、視野が広がる
「人間が言語を発明したとき、『話す』と『聞く』が始まった。そして、文字を発明して『書く』と『読む』が始まった。そして、インターネット、ソーシャルメディアというツールができて、誰もが『発信』し『受信』できる時代になった。この、とてつもなく大きな歴史の境目にいる今、情報リテラシーは全分野の情報にとって、共通の土台となる知識です」
TBSでアナウンサー、キャスターとして長年、報道の第一線に立ってきた下村健一さんは、こう語る。
’90年代末、早くから情報リテラシー教育を導入していたカナダに取材。それに加えて自身が取材者、発信者として気をつけていたことを考え合わせて編み出したのが、初見情報に接したときにとるべき態度「ソ」「ウ」「カ」「ナ」?。情報の真偽を即断しない、鵜(う)のみにしない、偏った判断をしない、スポットライトの中だけ見ない……。日々、メディアやSNSで目にするニュースの真贋を見分けるための眼力は、決してメディア関係者にだけ求められるものではないという。
「受信するだけでなく、今は誰もが情報の発信者なのだという自覚が、誰にも、まだまだ薄いんですよね。何かを書いたりいったりするだけでなく、『いいね』をするだけでも『私はこの情報にお墨付きを与えます』という発信になる。それは、ちゃんと責任を伴う行為なんです」
親世代と子世代双方に正しい働きかけを
下村さんいわく、情報リテラシー事情に影響するのは、まずはお国柄。
「狭い国土の中に多くの人がひしめく日本では、どうしても他者の意見に付和雷同しやすくなる。小さいころから『いうことをきくのがよい子です』と教わってきたように、ほかの人に合わせられないようでは困るわけです。だから人を疑ったり、異を唱えたりするのに勇気がいる」
さらには、大人ならではのむずかしさも。
「これまでの経験から、気をつけろといわれても『自分は間違っていないはず』『とりあえず今は大丈夫』と。さらには『この人のいうことなら』と誰かの意見を無批判に支持したり、これまでメディアに寄せてきた信頼を、そのままSNSに当てはめてしまいがち。信じやすい大人と拡散しやすい若者の相乗効果で、『情報災害』の危険はさらに高まっています」
今や情報リテラシーは「防災」の観点から必須のもの。常に「ソウカナ?」と自身に問いかけて自制しながら、大人としては、周囲の人々への働きかけも求められると、下村さんはいう。
「例えば、誰かからある意見を強く主張されて困ったとします。放っておいても解決にならないし、頭ごなしに否定してしまうと、相手はますます頑(かたくな)になってしまいます。意見を伝えるときは『No, but(違うよ、そうじゃなくて)……』ではなく『Yes, and(そうだね、それと)……』。こんな意見もあるんじゃない? 一緒に考えようよ、と情報を足し算しながら伝えるといいですね」
自分がうっかり誤情報を発信してしまったときは「ごめん、違った」と素直にいって、正しい情報に潔く切り替える。さらに、親世代と子世代をつなぐ立場のエクラ世代は、両世代に情報リテラシーを伝える役割を担う立場でもある。
「コツは、顔を見合わせずに横顔で。情報リテラシーはどの年代の人にとっても新しい課題ですから、一緒にスマホの画面を見ながら『ソウカナ?』と。初めて聞く意見が出てきた! これって本当に合ってるのかな? へぇ、こんな景色もあるんだ……とおもしろがれたら、自分の世界がさらに広がっていくはずです。情報リテラシーは、インターネットという発明を使って、誰もが幸せになるためのもの。減災は必ずできますので、ぜひ楽しみながら取り組んでください」
撮影/越野夕也 取材・原文/大谷道子 ※エクラ2026年7・8月合併号掲載