内野聖陽さんが念願のリア王役に挑む舞台『リア王 -KING LEAR-』が9月に開幕。シェイクスピア作品を演じるうえでの心構えや、役を通して感じた自身の変化について語ってくれた。
長女ゴネリルや次女リーガンの美辞麗句に機嫌をよくして領土を分け与えてしまうリア王。だが何もいおうとしない末娘コーディリアには激怒して親子の縁を切ってしまう。
「今回改めて読み直してみて、『リア王』って遠い世界の愚かな老人の話ではないな、と。親というものが陥りがちな失敗、気持ちが通じない親子の関係など、誰もが共感できるお話だと思うんです」
内野聖陽さんはリア王役に初めて挑む。
「まずは“シェイクスピアの罠”に陥らないようにしないとね。ワンセンテンスに修飾語が5個も6個もついているような、あの大仰な長台詞に飲み込まれないようにしないと。今の時点では、こうやって今会話しているような感覚で、台詞の動機を探っているところですね」
年を重ねていくことで誰しも穏やかに丸くなっていくのかと思いきや、年齢に比例するかのように何かに執着する人は少なくない。
「リア王も身ぐるみはがされて正気でなくなってから、ようやくコーディリアの愛や誠実さが見えるようになるんですね。僕自身、人間ってろくなもんじゃねえな、と思いはじめたのは、中年以降でした。自分も周りもいびつでゆがんでいて、決して完璧で美しいものではない。それが普通じゃないの……って。逆にそんな直視したくない人間の本来的な部分、それは、時として毒ともいわれてしまうものかもしれませんが、それにこそ光を当て、舞台に乗せたいと思うようになりましたね」
内野さんが演じた大河ドラマ『真田丸』の徳川家康を思い出す。外見は白髪で温厚そうだが、大河史上トップクラスの憎たらしい家康だった。その老獪さがもはやカッコよくすらあった。
「まさに自分の中の毒、いやらしい部分をいっぱい引っぱり出して、草刈正雄さん(真田昌幸役)の顔にグワ~ッて塗りたくるような感じでいこうと思ってやっていたなあ(笑)」
内野さん、今年で58歳。執着とか欲とか、何か変化を感じているのだろうか。
「僕の場合は欲が年々薄くなっている気がして、逆にもっと物欲もてや! もっとカッコいい車に乗りたいとか思えや!って自分をたきつけるときがあります。それにはやっぱり筋・ト・レ。ここ笑うところじゃないからね(笑)」と、とびきりチャーミングに言い切った。
「高価な物をもちたい、もっと偉くなりたい、いい男や女に出会いたいという世俗的な欲望をもつのも、けっこう大事だと思うんですよ。加齢によってどんどん控えめになっていきがちだけど、運動をすることは、物欲だけでなく人生を前向きにさせる魔法が隠されている。まだまだいけるって思えるから。読者の皆さんにもおすすめします。いや本当に」
『リア王 -KING LEAR-』
美辞麗句を並べる長女と次女と苦言を呈する三女。リアは三女を勘当するが……。シェイクスピア四大悲劇の最高峰。森新太郎の演出。9/21~10/4、東京芸術劇場プレイハウス
問☎0570・010・296(東京芸術劇場ボックスオフィス) 新潟、愛知、兵庫、岡山、福岡公演あり。
うちの せいよう●’68年、神奈川県出身。’25年に連続ドラマW『ゴールドサンセット』でリア王を演じることにとりつかれた老人を演じ話題に。主な出演作に舞台『ペリクリーズ』『ベガーズ・オペラ』『THE BIG FELLAH』『東海道四谷怪談』『ハムレット』『M.バタフライ』『笑の大学』『芭蕉通夜舟』、ドラマ『ふたりっ子』『風林火山』『臨場』『JIN-仁-』『真田丸』『きのう何食べた?』など。映画『負けへんで』は11/13公開予定。
photography:HAL KUZUYA hair& make-up:Yuko Sato styling:Kan Nakagawara text:Akiko Isogawa ※エクラ2026年10月号掲載