今年4月にオープンしたばかりだが、早くも鮨通の話題に上り、店は連日活況を呈している。大将の安部憲介氏は、元日本料理の料理人だけあり、つまみひとつにも鶏や魚、貝などのだしをブレンドするなど、こだわりを見せる。おまかせは鮨からスタート、おつまみをはさむスタイルだが、その多彩な味に「次は何が出てくるのだろう?」と期待がふくらむ。
「季節の高級食材も贅沢に使って、お客さまに楽しんでいただけたら」と安部氏。女将の出口福代さんの温かなサービスにも心癒される。
さりげなく“粋”を感じさせる、姿かたちのよい鮨が次々と。’19年のオープン以来、江戸前の仕事がきっちりなされた端正な鮨を求め、足繁く通う常連客は多数。
「脂ののりやうま味など、魚の個性をどう見極めるか、いつも考えています」と大将の岡田貴裕氏。特に好きな魚はコハダで、「季節や産地で脂ののりが違うので塩かげんがむずかしい」とこだわりの一面を見せる。確かに、岡田氏のコハダは優しい酢かげんとほどよい塩気、赤酢のシャリの酸味が相まって、とても風味豊か。目の前に供される海老やサワラ、中トロなどもそれぞれにうま味が生きて、幸福感に包まれる一瞬だ。
この個性豊かな鮨をさらにおいしくするのが、ソムリエの保坂卓氏が考案するワインのペアリング。王道の銘柄やハイレベルなナチュラルワインが鮨に優しく寄り添い、マリアージュの楽しさを体感させてくれる。新しい美味に感動しつつ、ゆったり過ごせるのが魅力の店だ。
店内を流れる気はすっきり、清らか。「これからの季節、魚は脂がのってきます。ヒラメなどの白身やサバ、白子もいい。11月は鮨が楽しい時期です」と大将の岡田貴裕氏
ソムリエの保坂卓氏は各国の料理に精通。ペアリングコースの内容は相談にものってくれる
(左から)大間産マグロの赤身と中トロ。赤身は繊細な鉄分がきわだち、中トロは上品な脂が口の中で溶ける。「マグロには赤ワイン。鉄分のニュアンスにマッチします」と保坂氏
(左から)昆布締めにした春子鯛は繊細なうま味がきわだつ。酢締めのかげんもほどよく、香り豊かなコハダ。脂ののったサワラはすっきりとした煮切りしょうゆで
蟹とウニ巻き。毛蟹にムラサキウニを合わせた贅沢なひと品。のりの香ばしい風味と相まって、美味!
東京都渋谷区広尾5の3の13 Barbizon86 5F
☎03・3446・1134
昼 12:00~(スタート/土曜のみ)
夜 17:30~、20:00~(2部制)(17:00~、19:30~/土曜)
㊡日・月曜を中心に月8回休み
昼・夜 おまかせ¥27,500
ワイン、日本酒あり。ペアリング¥11,000、グラスワイン¥1,500~
カウンター8席、個室カウンター5席 要予約
ミシュラン三ツ星の味を東京で。インターナショナルな空気感も魅力
ラグジュアリーホテルの高層階に位置、モダンな印象の店内だが、富山の組子や漆喰の壁が和の温かみを感じさせる。場所柄、世界のVIPやビジネスマンなどが多く訪れるが、大将の宇野哲也氏は「ここで“本物の江戸前”を知っていただけたらうれしい」と笑顔を見せる。鮨はていねいな仕事がなされた王道の味で、酢めしとのバランスが絶妙。つまみはどれもが繊細な味わいだ。北海道らしいのがニシンの棒鮨で、新鮮だからこその優しい甘味がきわだっている。北海道産食材も多いが、自ら豊洲に出向いては旬のおいしいものを仕入れている。「“三ツ星”のプレッシャーはありますが、半面楽しみでもある。『すし 宮川』の味をここで守っていきたいと思っています」。
老舗ホテルならではの品のよさ。“安定感のある味”に心が和む
’19年に『The Okura Tokyo』としてリニューアル開業、新たなステージを迎えながらも、『日本料理 山里』の“60年の歴史”は健在。ホテルの和食堂として、懐石料理や天ぷらなどハイレベルな料理を提供してきた。鮨もしかりで、ここでは『The Okura Tokyo』ならではの伝統を大切にした品のよい江戸前鮨が楽しめる。例えば、真鯛昆布締めは昆布のうま味が白身に移って繊細な味、煮切りでいただくシマアジは脂のおいしさを堪能させてくれる。料理長の薄葉天氏は、「伝統の江戸前の味を守っていきたい。ここにいらしたお客さまに『オークラの味だね。ほっとするね』といっていただければうれしいです」と語る。
京都の話題店が東京に進出。端正な王道の鮨が魅力的!
「にぎりの前には、必ず温かな料理をお出しします。まずは体を温めて、にぎりを楽しんでいただければ」と大将の粕谷光氏。ゲストがリラックスして食事できるよう、こまやかな心くばりを見せる。“リュクスな鮨店”として京都で話題になった『鮨 和魂』が’19年に東京に進出、“和の心”はそのままに、モダンな空気感を放っている。それが感じられるのが前菜の「雲子の茶碗蒸し」だ。タラの白子を茶碗蒸しに仕立て、黒トリュフで飾る。伝統料理にエッジを効かせ、この店ならではの味に仕立てている。一方、にぎりは王道そのもので、きゅっと優しめに締められたコハダは、えも言われぬ美味。
「魚は産地や日によって身質も脂ののりも違う。魚体に合わせて仕事を施しています」と粕谷氏。その真摯な姿が、“オーソドックスなおいしさ”を生み出している。
大将の“江戸前の美しき技”に感動!骨董の器でいただく楽しみも
その見事な仕事ぶりに見惚(みと)れることしきり。大将の近江英之介氏の手から生まれるのは、“食べる宝石”とでも呼びたくなるような美しい鮨の数々。わずか2〜3秒の“近江劇場”といっていい。興味深いのが、とにかく手数が少ないことで、マグロの赤身は煮切りをつけず、そのままいただくシンプルさ。なのに、酢めしとマグロの酸味が相まって、口中で優しい甘味が生まれるから驚く。浅めに酢締めしたコハダや香ばしい穴子も、極上の味!
近江氏は、銀座の名店で長年研鑽を積み、近年は2番手として活躍、’20年に満を持して独立した実力派。以来、正統派江戸前鮨を求め、鮨通たちが訪れる。かなりハイレベルな店ながら、近江氏の人柄もあり、緊張感は不要。「まずはお鮨を楽しんで」と人懐こい笑顔を見せる。お酒の価格も良心的で、ここなら、ゆったりくつろげる。
和食から多国籍料理まで、通が通いつめる、京都の名店・新店のすべてをお届けします。このためだけに行きたい!と思う、ここでしか味わえないお店を集めた「京都美味手帖2022」。進化を続ける京都の美食の今がつまっています。
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